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開発融資の見られ方|金融機関が確認するポイントと準備(一般論)

アパートメント開発における融資は、一棟購入の融資とは審査の視点が大きく異なります。購入融資では「既存物件の収益実績と担保価値」が主な判断材料ですが、開発融資では「まだ存在しない物件の収益性と、完成までのリスク管理」を評価する必要があります。そのため、金融機関は**返済可能性(キャッシュフロー)と、途中で崩れるリスク(工期・コスト・リーシング)**の両面を慎重に確認します。

開発融資が不安に感じられる理由は、「何を聞かれるか分からない」「どこまで準備すればいいか分からない」という不透明さにあります。本記事では、金融機関が一般的に確認するポイントを5つの観点に整理し、それぞれについて「なぜ見るのか」「どう準備するか」を解説します。

融資審査は、金融機関ごとに基準や重視するポイントが異なります。本記事で紹介する内容は一般的な傾向であり、個別の融資条件や審査結果を保証するものではありません。実際の融資相談では、必ず金融機関の担当者に確認し、必要に応じて専門家(税理士、不動産鑑定士、建築士など)の助言を得ることを推奨します。


目次

|見られるのは「返せるか」+「途中で崩れないか」

開発融資の審査で金融機関が最も重視するのは、**「完成後に安定したキャッシュフローが生まれ、返済が継続できるか」と「開発の途中で計画が崩れるリスクに対処できるか」**の2点です。

返済可能性(キャッシュフロー)

物件が完成し、入居者が集まった後、賃料収入から運営費とローン返済を差し引いても、キャッシュフローがプラスになるか。この判断には、想定賃料の妥当性、稼働率の見込み、運営費の積算精度、返済負担の重さなどが関わります。金融機関は、標準的なシナリオだけでなく、保守的なシナリオ(賃料が5%下がる、稼働率が90%になるなど)でも返済が継続できるかを確認します。

途中で崩れるリスク

開発は、完成までの間に様々なリスクが発生します。工期が遅れる、建築費が当初見積もりより増える、想定していた入居者が集まらず満室が遅れる、といった事態です。これらのリスクが顕在化した場合でも、追加資金を投入できるか、返済スケジュールを調整できるか、といった対応力が問われます。

担保・自己資金は”安全余白”として扱われる

担保(土地・建物)や自己資金は、万が一返済が滞った場合の「最終的な保全手段」として評価されます。ただし、担保があれば必ず融資が通るわけではありません。金融機関は、あくまで「キャッシュフローで返せるか」を第一に考え、担保は補完的な安全余白として位置づけます。自己資金の割合が高いほど、開発途中でのリスクバッファーが大きくなるため、融資が通りやすくなる傾向があります。

以下の図表は、金融機関が開発融資で確認する主な審査観点を整理したものです。

【図表1】審査観点マップ(全体像)

観点主な確認内容なぜ見るか
A. 申込者(Borrower)個人/法人の信用、実績、体制、意思決定力、外部専門家の関与誰が、どのような体制で事業を管理するか。信頼性と実行力があるか。
B. 案件(Project)立地、需要、ターゲット、間取り、設備、競合状況、商品性その場所で、その企画が成立するか。需要根拠は妥当か。
C. 数字(Numbers)収支、NOI、DSCR、感度分析、資金計画、返済余力完成後のキャッシュフローで返済できるか。保守的に見ても成立するか。
D. 担保(Collateral)土地・建物の評価、換金性、法規制、接道、保全可能性万が一の場合、担保でどれだけ回収できるか。
E. 実行条件(Execution)工期、建築費、施工会社、設計、リーシング体制、契約管理途中で計画が崩れないか。工期遅延・コスト増への備えがあるか。

この5つの観点を順に確認し、それぞれでどのような準備が必要かを解説します。


観点1)申込者(Borrower):誰が、どう回すか

金融機関は、融資先が「信頼できる相手か」「事業を最後まで遂行できる能力があるか」を確認します。

個人/法人の違い(一般論):

個人で借りる場合、本人の信用情報(過去の借入・返済履歴、事故情報の有無)、所得状況、資産背景が重視されます。法人で借りる場合、会社の決算内容、資本金、事業実績、代表者の経歴が確認されます。法人の場合でも、代表者の個人保証を求められることが一般的です。

実績・体制:

開発の実績がある場合、過去の案件の成功事例(完成・満室・収支の達成状況)を示すことで、信頼性が高まります。初めての開発である場合、外部の専門家(建築士、税理士、不動産コンサルタントなど)がどのように関与するかを明示することで、「体制が整っている」と評価されやすくなります。

金融機関が見るのは、「意思決定が明確か」「役割分担がはっきりしているか」「リスクが顕在化したときに誰が対処するか」といった点です。たとえば、設計は建築士、施工は建設会社、リーシングは管理会社、資金管理は税理士、といった形で各分野の専門家が関与していれば、リスクが分散され、計画の実現可能性が高まります。

よくある弱点:

説明資料が薄く、「なぜこの開発をするのか」「どのように管理するのか」が伝わらない場合、金融機関は不安を感じます。また、役割分担が不明確で、「誰が設計を見るのか」「誰がリーシングを担当するのか」が曖昧な場合も、実行力に疑問を持たれます。

準備のポイント:

申込者(個人または法人)の概要資料、これまでの不動産投資・開発実績、関与する専門家の一覧と役割分担を整理します。初めての開発であれば、「外部専門家のサポートを受けながら進める」という体制を明示します。


観点2)案件(Project):需要と商品性

金融機関は、「その立地で、その企画が本当に成立するのか」を確認します。

立地需要の考え方:

人口が増えているだけでは不十分です。ターゲット層(単身、DINKS、ファミリーなど)の人口動態、競合物件の供給状況、家賃相場の水準と成約スピードを確認し、「誰が、なぜこの物件を選ぶのか」を説明できる必要があります。

たとえば、「駅徒歩7分、周辺に単身向けワンルームが多数あるが、1LDKの供給は少ない。20代後半〜30代前半のDINKS層が増加しており、1LDK需要が見込める」といった形で、需要の根拠を示します。

企画の妥当性:

間取り、設備、想定家賃が、立地とターゲット層に合っているかを確認します。たとえば、ファミリー向けを想定しているのに駐車場がない、単身向けなのに広すぎる間取り、といったミスマッチがあれば、商品性が弱いと判断されます。

金融機関は、「なぜこの間取りなのか」「なぜこの設備なのか」「競合物件と比較してどこが優位なのか」といった点を確認します。これらに明確な根拠があれば、企画の実現可能性が高いと評価されます。

準備のポイント:

立地の需要根拠(人口動態、競合分析、家賃相場)、ターゲット層の設定、間取り・設備の選定理由を整理します。必要であれば、競合物件との比較表を用意し、自らの物件の強みを可視化します。

賃貸需要の詳細な調査方法については、別記事で解説しています。

参考記事:
賃貸需要の読み方:人口動態・駅距離・競合物件・家賃相場の調べ方(任意の内部リンク)


観点3)数字(Numbers):収支の妥当性と”保守性”

金融機関は、収支計画が「楽観的すぎないか」「保守的に見ても成立するか」を重視します。

最低限出したい指標(一般的な考え方)

以下の指標を計算し、収支の妥当性を示します。

NOI(Net Operating Income、純営業収益):

NOIは、物件が生み出す「運営の稼ぐ力」を示します。NOI=年間賃料収入×稼働率−運営費

NOIが高いほど、物件の収益性が高いと言えます。金融機関は、NOIがローン返済額を上回るかを確認します。

DSCR(Debt Service Coverage Ratio、返済余力):

DSCRは、NOIがローン返済額の何倍あるかを示す指標です。DSCR=年間返済額NOI​

一般的に、DSCRが1.2以上あれば、返済余力があると評価されます。DSCRが1.0に近い場合、収支がギリギリであり、リスクバッファーが小さいと判断されます。

感度分析(シナリオ別シミュレーション):

標準的な前提だけでなく、以下のような保守的なシナリオでも収支が成立するかを確認します。

  • 賃料が5%〜10%下がった場合
  • 稼働率が90%に下がった場合
  • 建築費が10%増加した場合
  • 金利が1%上昇した場合
  • 工期が3ヶ月遅延した場合

これらのシナリオでもキャッシュフローがプラスであれば、リスク耐性が高いと評価されます。

よくある落とし穴

満室前提で計算している: 稼働率100%を前提にすると、実際には空室が発生するため、収入が計画を下回ります。保守的に稼働率90%〜95%で計算します。

運営費の内訳がない: 「運営費は賃料収入の20%」といった一括計上だけでは、内訳が見えず、金融機関は妥当性を判断できません。管理費、修繕費、原状回復費、固定資産税、保険料など、項目別に積み上げます。

賃料根拠が弱い: 「この立地なら7万円で埋まる」という主張だけでは不十分です。競合物件の募集家賃、成約事例、募集期間などのデータを示し、賃料の妥当性を裏付けます。

工期中の資金繰りを見ていない: 工期中(着工から竣工まで)は、賃料収入がゼロですが、ローンの利息や運営準備費用は発生します。この期間の資金繰り(つなぎ融資、自己資金の取り崩しなど)を計画に織り込む必要があります。

準備のポイント:

標準ケースと保守ケースの2パターンで収支を作成します。NOI、DSCR、感度分析の結果を明示し、「保守的に見ても返済可能」であることを示します。


観点4)担保(Collateral):評価と保全の論点

金融機関は、万が一返済が滞った場合に、担保(土地・建物)を売却してどれだけ回収できるかを評価します。

担保評価の考え方(一般論):

担保評価は、「いくらで売れそうか(換金性)」「買い手がつきやすいか(流動性)」といった観点で行われます。評価方法は金融機関によって異なりますが、一般的には、以下のような要素が考慮されます。

  • 土地の立地条件(駅距離、周辺環境、法規制、接道条件)
  • 建物の構造・築年数・設備水準
  • エリアの不動産市場の活況度(取引事例の多寡、価格動向)
  • 売却時の想定価格(不動産鑑定士の評価、取引事例など)

土地条件の影響:

接道条件が不十分(建築基準法上の道路に接していない、幅員が狭いなど)、形状が不整形、高低差がある、といった土地は、担保評価が低くなる傾向があります。また、用途地域や地区計画による制限が厳しい場合、将来の活用可能性が限定され、評価が下がることがあります。

エリア特性の影響:

人口減少が著しいエリア、不動産取引が少ないエリアでは、売却時に買い手がつきにくく、担保評価が低くなります。逆に、人口増加エリア、駅近、再開発が予定されているエリアなどは、担保評価が高くなる傾向があります。

準備のポイント:

土地の測量図、登記事項証明書、法規制の確認資料(用途地域、接道条件など)を準備します。不動産鑑定士による評価書があれば、担保価値の妥当性を示す資料として有効です。


観点5)実行条件(Execution):工期・コスト・契約管理

金融機関は、開発が途中で詰まらないか、計画通りに進むかを確認します。

工期遅延・コスト増の管理:

工期が遅れれば、その間の金利負担が増え、満室が遅れれば収入の開始も遅れます。建築費が見積もりより増えれば、追加資金が必要になります。これらのリスクに対し、どのような備えがあるかを説明します。

たとえば、予備費を建築費の5%〜10%計上している、施工会社との契約で工期遅延時のペナルティを設定している、工程表を詳細に管理し、定期的に進捗を確認する、といった対策を示します。

施工会社・設計・管理会社などの体制:

施工会社の実績、設計事務所の経験、管理会社のリーシング力などが、計画の実現可能性に影響します。金融機関は、「どの会社が関与するか」「各社の役割分担は明確か」「過去の実績はどうか」を確認します。

実績のある施工会社や設計事務所が関与している場合、計画の信頼性が高まります。逆に、実績が不明な会社や、役割分担が曖昧な場合、リスクが高いと判断されます。

“途中で詰まない仕組み”を説明できるか:

金融機関が知りたいのは、「問題が起きたときに、どう対処するか」です。たとえば、工期が遅れた場合、つなぎ融資を追加できるか、自己資金で補填できるか。建築費が増えた場合、追加融資を受けられるか、設計を見直してコストを削減できるか。こうした対応策を事前に整理しておくことで、実行力があると評価されます。

準備のポイント:

工程表(いつ何が必要か)、施工会社・設計事務所・管理会社の概要と実績、契約条件(工期、支払いスケジュール、ペナルティなど)、予備費の計上を整理します。


事前に用意しておく資料(チェックリスト)

融資相談の前に、以下の資料を準備しておくと、スムーズに話が進みます。

【図表2】融資相談前の準備チェックリスト

項目内容準備状況
物件/計画概要所在地、用途、戸数、間取り、延床面積、想定ターゲット
需要根拠家賃相場、競合分析、駅距離、周辺環境、人口動態
概算収支標準ケース/保守ケースの2パターン、NOI、DSCR
資金計画総投資額、自己資金、借入希望額、返済期間の考え方
見積・概算建築費、造成費、付帯工事、予備費
工程表着工〜竣工〜満室までのスケジュール
体制設計事務所、施工会社、管理会社、リーシング担当
申込者情報個人:所得証明、資産状況、信用情報
法人:決算書、会社概要、代表経歴
土地関連資料測量図、登記事項証明書、法規制確認資料(用途地域、接道条件など)
感度分析賃料▲5%、稼働率90%、建築費▲10%、金利▲1%のシナリオ

このチェックリストを埋めることで、融資相談時に「何が足りないか」が明確になります。

注意:

資料は、事実に基づいて正確に作成してください。虚偽の記載や粉飾は、融資契約違反となり、法的責任を問われる可能性があります。不明点がある場合は、専門家(税理士、不動産鑑定士など)に相談し、正確な情報を提供してください。


相談時に確認したい質問(読者の次アクション)

融資相談時に、以下の質問を金融機関の担当者に確認することで、審査の進め方や条件を明確にできます。

どの前提(賃料/空室/運営費/金利)を保守的に置くべきか:

自分が作成した収支が、金融機関の基準から見て保守的かどうかを確認します。たとえば、「賃料は競合相場の中央値で置いていますが、これを5%下げた保守ケースでも評価してもらえますか」といった質問です。

つなぎ融資・分割実行・条件変更の可能性:

工期中の資金繰りに不安がある場合、つなぎ融資(短期融資)の利用可能性を確認します。また、建築費が見積もりより増えた場合、追加融資や返済条件の変更が可能かを確認します。

必要資料の追加・審査の流れ(タイムライン):

今回提出した資料で審査が進められるか、追加で必要な資料があるかを確認します。また、審査にどれくらいの期間がかかるか、本審査に進むための条件は何かを確認します。

DSCR、LTV(Loan to Value)などの基準:

金融機関が重視する指標の基準を確認します。たとえば、「DSCRは最低1.2必要ですか」「LTV(借入額÷担保評価額)は何%まで可能ですか」といった質問です。

これらの質問を通じて、金融機関の審査基準と自分の計画のギャップを把握し、必要な調整を行います。


融資の説明力を高める次のステップ

融資の説明力は、「収支の作り方」で大きく変わります。賃料の根拠が明確か、運営費が項目別に積算されているか、感度分析が保守的に行われているか、といった点が、金融機関の信頼を得るポイントです。

家賃想定から建築費、融資条件までを体系的に整理した収支設計の方法については、以下の記事で詳しく解説しています。

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免責事項

本記事で紹介した開発融資の審査観点および準備方法は、一般的な情報に基づくものです。金融機関ごとに審査基準、重視するポイント、必要資料、融資条件は大きく異なります。

本記事の内容は、融資の可否、融資条件、審査結果を保証するものではありません。実際の融資相談にあたっては、必ず金融機関の担当者に確認し、必要に応じて専門家(税理士、不動産鑑定士、建築士、弁護士など)の助言を得てください。

また、資料の作成にあたっては、事実に基づいた正確な情報を提供してください。虚偽の記載、粉飾、不正な手段による融資申請は、法的責任を問われる可能性があります。

本記事の情報に基づいて行った判断について、当社は一切の責任を負いかねます。

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