アパートメント開発において、事業収支と資金計画は意思決定の核となる資料です。しかし、開発は一棟購入とは異なり、まだ存在しない物件の収益性を予測し、完成までの資金の流れを管理する必要があります。変数が多く、不確実性が高いからこそ、収支を作る「型」が重要になります。
多くの開発検討者が陥りやすいのは、「見積もりが固まるまで収支が作れない」「満室前提で計算すればいい」「利回りさえ合えば大丈夫」という誤解です。実際には、見積もりが出る前でも概算収支は作れますし、満室前提では立ち上がり期間の資金繰りを見落とします。利回りだけでは、賃料下落や金利上昇のリスク耐性は分かりません。
本記事では、事業収支と資金計画を、最初のたたき台から精緻化まで、一連の流れで体系化します。家賃想定(収入)、運営費(OPEX)、開発費(CAPEX)、借入条件(Debt)を分解し、「何をどう置けばいいか」を具体的に解説します。また、標準・保守・悪化の3シナリオで感度分析を行い、「どこがボトルネックか」を特定する方法も提示します。
本記事は、株式会社RIELがアパートメント開発事業者向けに提供する情報の一部です。RIELは、用地選定から設計・施工、資金計画、運営管理まで、開発プロジェクト全体をサポートしています。開発に関する具体的なご相談や、事業収支の精緻化、融資条件の検討については、RIEL公式サイトをご覧ください。
「成立するか」は1枚の収支ではなくシナリオで判断する

事業収支を作る際、最も重要なのは、1つの前提だけで判断しないことです。標準的なシナリオだけでなく、保守的なシナリオ、さらに悪化したシナリオの3パターンで収支を作成し、それぞれでキャッシュフローがどう変化するかを確認します。
標準シナリオ: 競合相場の中央値で賃料が決まり、稼働率95%、建築費が見積もり通り、金利が現在水準のまま推移する、という「おそらくこうなるだろう」前提です。
保守シナリオ: 賃料が相場より5%低い、稼働率90%、建築費が見積もりより10%増加、金利が1%上昇する、という「やや厳しめ」の前提です。このシナリオでもキャッシュフローがプラスであれば、リスク耐性があると言えます。
悪化シナリオ: 賃料が相場より10%低い、稼働率85%、建築費が見積もりより15%増加、金利が2%上昇、工期が3ヶ月遅延する、という「かなり厳しい」前提です。このシナリオで赤字に転落する場合、どこまでリスクを許容できるかを判断します。
「満室前提」「コスト固定前提」を避ける理由
満室前提(稼働率100%)で計算すると、実際には空室が発生するため、収入が計画を下回ります。また、新築時は竣工から満室まで数ヶ月かかることが一般的であり、その間の収入減少を見落とすと、資金繰りが厳しくなります。
コスト固定前提では、建築費や造成費が見積もり通りに収まると仮定しますが、実際には地盤調査、造成、インフラ引き込みなどで追加費用が発生することがあります。予備費を計上せずに進めると、追加費用が発生した時点で資金が不足します。
収支と資金繰りは別物(黒字でも資金ショートする)
年間収支が黒字でも、資金繰りが回らなければ事業は継続できません。たとえば、竣工後に満室になるまでの間、賃料収入がゼロまたは部分的にしか入らないため、その間のローン返済と運営費を自己資金で賄う必要があります。また、工期中は建築費の支払いが先行し、借入金の実行タイミングとズレが生じることがあります。資金繰り(月次のキャッシュインとキャッシュアウト)を計画に織り込むことが不可欠です。
以下の図表は、事業収支・資金計画の全体フローを示したものです。
【図表1】事業収支・資金計画の全体フロー(STEP0〜8)
| ステップ | 内容 | アウトプット |
|---|---|---|
| STEP0 | 前提条件の固定 | 前提条件シート(立地、ターゲット、戸数/間取り、竣工時期、運用方針) |
| STEP1 | 家賃想定(収入) | 間取り別の想定賃料表(標準/保守) |
| STEP2 | 稼働率と立ち上がり | 月次の稼働イメージ(竣工〜満室までの期間) |
| STEP3 | 運営費(OPEX) | 運営費の内訳表(項目別) |
| STEP4 | NOI(純営業収益) | 標準/保守のNOI |
| STEP5 | 開発費(CAPEX) | 概算CAPEX(土地、建築費、造成、予備費など) |
| STEP6 | 借入条件(Debt) | 年間返済額の概算、金利感度のメモ |
| STEP7 | 資金計画(資金繰り) | 月次の資金繰り(工期中含む) |
| STEP8 | 感度分析(シナリオ) | シナリオ比較表(標準/保守/悪化)、ボトルネックの特定 |
このフローに沿って、順番に収支と資金計画を作成していきます。
STEP0 前提条件を固定する
収支を作る前に、まず前提条件を固定します。前提が曖昧なまま収支を作ると、後で「あの数字は何を前提にしていたか」が分からなくなり、判断がブレます。
固定すべき前提条件:
立地: 最寄り駅、駅距離(徒歩分数)、周辺の家賃相場、競合物件の供給状況。立地が変われば、想定賃料、稼働率、ターゲット層が変わります。
ターゲット: 誰向けの物件か(単身者/DINKS/ファミリーなど)、年齢層、職業・ライフスタイルの想定。ターゲットが明確でないと、間取りや設備の選定がブレます。
戸数/間取り(仮置き): 戸数(何戸建てるか)、間取り(ワンルーム/1K、1LDK、2LDKなど)、専有面積の方向性。この段階では詳細設計は不要ですが、「ワンルーム8戸、延床300㎡程度」といった大枠を決めます。
竣工時期: 着工時期、竣工時期、満室時期の想定。工期が長くなれば、その間の金利負担や機会損失が増えます。
運用方針: 長期保有するのか、築浅で売却するのか。長期保有であれば、修繕費や賃料下落を織り込む必要があります。売却前提であれば、売却時の想定価格(出口戦略)も考慮します。
アウトプット:
前提条件シートを作成します。以下は例です。
- 立地:○○駅徒歩7分、住宅地、周辺相場ワンルーム6.5〜7.5万円
- ターゲット:20代後半〜30代前半の単身者(社会人)
- 戸数/間取り:ワンルーム8戸、1K 25㎡×8戸、延床面積約300㎡
- 竣工時期:着工2026年4月、竣工2027年3月、満室2027年6月
- 運用方針:長期保有(10年以上)
この前提条件シートは、収支のすべての計算の基礎となります。途中で前提が変わる場合は、収支を作り直す必要があります。
STEP1 収入(家賃)を置く
収支の最初のステップは、想定賃料を設定することです。賃料は収入の源泉であり、ここが狂うと収支全体が崩れます。
同条件の募集相場の集め方(レンジで):
対象地周辺の募集家賃を、間取り別、築年数別、駅距離別に調査します。不動産ポータルサイト(SUUMO、HOME’S、at homeなど)で、同条件の物件を検索し、賃料のレンジ(上位/中央値/下位)を把握します。
たとえば、「駅徒歩5〜10分、築5年以内、ワンルーム25㎡」の条件で検索した結果、募集家賃が6.5万円〜7.5万円の範囲に分布している場合、中央値は7.0万円前後となります。
成約との差が出得ること、キャンペーン等の存在に注意:
募集家賃がそのまま成約するとは限りません。入居者との交渉、フリーレント(一定期間の賃料無料)、広告料(AD)の上乗せなど、「見えにくい値引き」が存在します。また、繁忙期(1〜3月)と閑散期(夏〜冬)では、募集条件が変わることがあります。
成約家賃のデータは一般に入手困難であるため、募集家賃から一定の割引を見込んで保守的に推定します。たとえば、「募集家賃の95%〜98%が成約家賃」といった前提を置くことが考えられます。
標準/保守賃料の置き方:
募集家賃の中央値を「標準賃料」とし、そこから5%〜10%低い水準を「保守賃料」とします。たとえば、ワンルーム25㎡の募集相場が7.0万円であれば、標準賃料は7.0万円、保守賃料は6.5万円〜6.7万円とします。
アウトプット:
間取り別の想定賃料表を作成します。
| 間取り | 専有面積(㎡) | 標準賃料(万円) | 保守賃料(万円) | 根拠 |
|---|---|---|---|---|
| ワンルーム | 25 | 7.0 | 6.5 | 競合相場の中央値〜下位 |
| 1K | 25 | 7.0 | 6.5 | 同上 |
賃貸需要の詳細な調査方法については、以下の記事で解説しています。
STEP2 稼働率と立ち上がり(満室までの時間)を織り込む
次に、稼働率を設定します。稼働率は、「年間を通じて何%の部屋が入居している状態か」を示す指標です。
通年稼働率の考え方:
通年の稼働率は、保守的に**90%〜95%**で設定します。つまり、年間で5%〜10%の空室が発生することを前提とします。たとえば、8戸の物件であれば、年間で0.4戸〜0.8戸分の空室が発生する計算です。
稼働率100%(常に満室)を前提にすると、実際には退去が発生するため、収入が計画を下回ります。
新築の立ち上がり期間(満室までの想定):
新築物件の場合、竣工直後は満室にならないことが多いため、竣工から満室までの期間を3ヶ月〜6ヶ月程度見込みます。この期間は、収入がゼロまたは部分的にしか入らないため、資金繰りに影響します。
たとえば、2027年3月に竣工し、2027年6月に満室になると想定した場合、3月〜5月は部分的な入居(50%〜80%程度)を見込みます。
アウトプット:
月次の稼働イメージを作成します。
| 月 | 稼働率(標準) | 稼働率(保守) | 備考 |
|---|---|---|---|
| 2027年3月 | 0% | 0% | 竣工、募集開始 |
| 2027年4月 | 50% | 30% | 部分入居開始 |
| 2027年5月 | 80% | 60% | 継続募集 |
| 2027年6月 | 95% | 85% | ほぼ満室 |
| 2027年7月以降 | 95% | 90% | 通年稼働 |
この立ち上がり期間を織り込むことで、竣工直後の収入減少と資金繰りへの影響を把握できます。
STEP3 運営費(OPEX)を項目で積む
運営費(Operating Expense, OPEX)は、物件を運営するために毎年発生する費用です。運営費を見落とすと、収支が大幅に悪化します。
運営費の主な項目:
管理費: 管理会社に支払う費用。一般的に、賃料収入の3%〜5%程度です。自主管理の場合でも、管理業務の労力をコストとして認識します。
清掃費: 共用部の清掃費用。週1回〜月2回の清掃で、月額1万円〜3万円程度が一般的です。
共用部光熱費: 共用廊下、階段、エントランスの照明、エレベーター(ある場合)の電気代など。月額数千円〜数万円程度です。
募集費: 広告料(AD)、仲介手数料、フリーレントなど。退去が発生するたびに必要になります。年間の退去率を10%〜20%と仮定し、募集費を見込みます。
保険料: 火災保険、地震保険など。年間数万円〜十数万円程度です。
税(一般論): 固定資産税・都市計画税は、土地と建物の評価額に基づき、毎年課税されます。一般的には評価額の1.4%〜1.7%程度です。個別の評価額は自治体によって異なるため、正確な金額は固定資産税課に確認します。
修繕費(平準化の考え方): 外壁塗装、防水工事、設備の交換など、大規模修繕に備えた費用。新築時は発生しませんが、築10年〜15年で大規模修繕が発生するため、年間で賃料収入の5%〜10%を積み立てる考え方が一般的です。
原状回復費: 退去時の室内クリーニング、壁紙・床の張り替え、設備の修理など。1戸あたり5万円〜15万円程度が目安です。退去率を年間10%〜20%と仮定し、年間の原状回復費を見込みます。
「率で一括」だけにしない理由(検証不能になる):
「運営費は賃料収入の20%」といった形で一括計上することもありますが、これでは内訳が見えず、検証ができません。たとえば、修繕費が想定より高くなった場合、どの項目が増えたのかが分かりません。項目別に積み上げることで、収支の精度が上がります。
アウトプット:
運営費の内訳表を作成します。
| 項目 | 年間費用(標準・万円) | 年間費用(保守・万円) | 備考 |
|---|---|---|---|
| 管理費 | 30 | 32 | 賃料収入の5% |
| 清掃費 | 18 | 20 | 月額1.5万円 |
| 共用部光熱費 | 12 | 15 | 月額1万円〜1.2万円 |
| 募集費 | 20 | 25 | 退去率15%、AD 1ヶ月分 |
| 保険料 | 10 | 10 | 火災保険 |
| 固定資産税・都市計画税 | 50 | 50 | 評価額の1.5% |
| 修繕費(積立) | 40 | 50 | 賃料収入の7% |
| 原状回復費 | 20 | 30 | 退去率15%、1戸10万円 |
| 合計 | 200 | 232 |
この表をもとに、次のステップでNOIを計算します。
STEP4 NOIを出す
NOI(Net Operating Income、純営業収益)は、物件が生み出す「運営の稼ぐ力」を示す指標です。
計算方法:
$$\text{NOI} = \text{年間賃料収入} \times \text{稼働率} – \text{運営費}$$
たとえば、以下の前提で計算します。
- 年間賃料収入(満室時):8戸 × 7.0万円 × 12ヶ月 = 672万円
- 稼働率(標準):95%
- 稼働率(保守):90%
- 運営費(標準):200万円
- 運営費(保守):232万円
標準ケース:
$$\text{年間実質賃料収入} = 672 \times 0.95 = 638.4 \text{万円}$$
$$\text{NOI} = 638.4 – 200 = 438.4 \text{万円}$$
保守ケース:
年間賃料収入(満室時):8戸 × 6.5万円 × 12ヶ月 = 624万円
$$\text{年間実質賃料収入} = 624 \times 0.90 = 561.6 \text{万円}$$
$$\text{NOI} = 561.6 – 232 = 329.6 \text{万円}$$
NOIの位置づけ(返済前の実力):
NOIは、ローン返済や税金を考慮する前の「物件そのものの収益力」を示します。NOIが高ければ、その物件は運営上の収益性が高いと言えます。
アウトプット:
標準/保守のNOIを明記します。
- 標準ケース:NOI 438万円
- 保守ケース:NOI 330万円
次に、開発費を計算し、最終的なキャッシュフローを算出します。
STEP5 開発費(CAPEX)を概算する
開発費(Capital Expenditure, CAPEX)は、物件を完成させるまでに必要な初期投資です。見積もりが固まる前の段階では、概算で構いませんが、ブレやすい箇所を特定し、予備費を計上することが重要です。
主なコスト項目:
以下の項目を計上します。
| 項目 | 概算金額(標準・万円) | 概算金額(保守・万円) | 備考 |
|---|---|---|---|
| 土地取得費 | 2,500 | 2,500 | 土地価格 |
| 土地取得諸費用 | 125 | 125 | 仲介手数料、登記費用、印紙税など(土地価格の5%程度) |
| 設計費 | 150 | 180 | 建築費の3%〜5%程度 |
| 建築確認申請費用 | 25 | 25 | 確認申請手数料 |
| 各種負担金 | 50 | 100 | 上下水道、インフラ引き込み負担金 |
| 建築費 | 5,000 | 5,500 | 坪単価×延床面積(見積前は幅を持たせる) |
| 造成費・地盤改良費 | 150 | 400 | 高低差、擁壁、軟弱地盤の場合に発生 |
| 外構工事 | 120 | 150 | 駐車場、フェンス、植栽など |
| 付帯工事 | 80 | 100 | エアコン、照明、カーテンレールなど |
| 予備費 | 250 | 500 | 建築費の5%〜10%(想定外の追加工事に備える) |
| 合計 | 8,450 | 9,580 |
予備費(コンティンジェンシー)を”最初から入れる”理由:
見積もり段階で想定できない追加費用に備え、建築費の5%〜10%程度を予備費として計上します。地盤改良、造成、擁壁のやり替え、インフラ引き込みなど、調査が進むまで正確な金額が分からない項目があるためです。
予備費を計上していない場合、追加費用が発生した時点で資金が不足し、プロジェクトが頓挫するリスクがあります。
アウトプット:
概算CAPEXを明記します。
- 標準ケース:総投資額 8,450万円
- 保守ケース:総投資額 9,580万円
開発費のブレ要因については、以下の記事で詳しく解説しています。
STEP6 借入条件を置く
開発費が概算できたら、次に資金計画を立てます。
入力(必要な情報):
自己資金の金額、借入額、金利、返済期間を設定します。
たとえば、以下の前提で計算します(標準ケース)。
- 総投資額:8,450万円
- 自己資金:1,500万円
- 借入額:6,950万円
- 金利:2.0%(固定)
- 返済期間:25年
年間返済額の計算:
年間返済額は、元利均等返済の場合、金融機関の返済シミュレーターを使用して計算します。上記の前提では、年間返済額は約350万円程度となります(概算)。
指標(例:DSCR等)は「一般的な考え方」として触れる:
DSCR(Debt Service Coverage Ratio)は、NOIがローン返済額の何倍あるかを示す指標です。
$$\text{DSCR} = \frac{\text{NOI}}{\text{年間返済額}}$$
標準ケース(NOI 438万円)では、
$$\text{DSCR} = \frac{438}{350} = 1.25$$
一般的に、DSCRが1.2以上あれば、返済余力があると評価されます。ただし、DSCRの定義や基準は金融機関によって異なるため、個別に確認が必要です。
金利感度のメモ:
金利が1%上昇した場合(金利3.0%)、年間返済額は約390万円に増加します(概算)。この場合、
標準ケース:$$\text{DSCR} = \frac{438}{390} = 1.12$$
保守ケース:$$\text{DSCR} = \frac{330}{390} = 0.85$$
金利が1%上昇するだけで、保守ケースではDSCRが1.0を下回り、返済余力がなくなることが分かります。
アウトプット:
年間返済額の概算と金利感度を明記します。
| ケース | NOI(万円) | 年間返済額(万円) | キャッシュフロー(万円) | DSCR |
|---|---|---|---|---|
| 標準(金利2.0%) | 438 | 350 | 88 | 1.25 |
| 保守(金利2.0%) | 330 | 350 | -20 | 0.94 |
| 標準(金利3.0%) | 438 | 390 | 48 | 1.12 |
| 保守(金利3.0%) | 330 | 390 | -60 | 0.85 |
この表から、保守ケースでは金利2.0%でもキャッシュフローがマイナスになることが分かります。この場合、賃料を上げる、コストを削減する、自己資金を増やす、といった対策が必要です。
STEP7 資金計画(資金繰り)
年間収支が黒字でも、資金繰りが回らなければ事業は継続できません。資金繰りとは、月次のキャッシュインとキャッシュアウトを管理することです。
工期中の支出タイミング:
工期中(着工から竣工まで)は、賃料収入がゼロですが、建築費の支払いが発生します。一般的に、建築費は以下のようなタイミングで支払われます。
- 着工時(契約金):建築費の10%〜30%
- 中間払い(上棟時など):建築費の30%〜50%
- 竣工時(引き渡し):残金
この支払いタイミングと、借入金の実行タイミングがズレると、つなぎ資金が必要になります。
分割実行、つなぎ等の”考え方”:
金融機関によっては、建築費の支払いタイミングに合わせて、借入金を分割実行してくれることがあります。また、工期中の短期融資(つなぎ融資)を利用することで、自己資金の負担を軽減できます。
ただし、つなぎ融資の可否、金利、条件は金融機関によって異なるため、事前に確認が必要です。
重要:支払サイト、出来高、着工金、引渡し時期:
建築費の支払いは、出来高(工事の進捗)に応じて行われることが一般的です。着工金、中間払い、竣工時の残金といった形で、複数回に分けて支払います。これらのタイミングを事前に把握し、資金繰り表に反映させます。
アウトプット:
月次の資金繰り(簡易テンプレ)を作成します。
以下の図表は、資金計画テンプレートの概形を示したものです。
【図表2】資金計画テンプレート(月次資金繰り・概形)
| 月 | 自己資金投入(万円) | 借入実行(万円) | 建築費支払い(万円) | 諸費用支払い(万円) | 利息(万円) | 賃料収入(万円) | 月次CF(万円) | 累計CF(万円) |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 2026年4月(着工) | 500 | 1,500 | 1,500 | 300 | 0 | 0 | -300 | -300 |
| 2026年7月(中間) | 0 | 2,500 | 2,500 | 0 | 10 | 0 | -10 | -310 |
| 2027年3月(竣工) | 1,000 | 2,950 | 2,450 | 200 | 30 | 0 | -30 | -340 |
| 2027年4月(入居開始) | 0 | 0 | 0 | 0 | 12 | 280 | 268 | -72 |
| 2027年5月 | 0 | 0 | 0 | 0 | 12 | 450 | 438 | 366 |
| 2027年6月(満室) | 0 | 0 | 0 | 0 | 12 | 540 | 528 | 894 |
| 2027年7月以降 | 0 | 0 | 0 | 0 | 12 | 540 | 528 | 継続 |
この資金繰り表を作成することで、どの時点で自己資金を投入する必要があるか、借入金の実行タイミングはいつか、満室になるまでの間に資金が不足しないかを確認できます。
STEP8 感度分析
収支が作成できたら、最後に感度分析を行います。感度分析とは、前提条件を変化させたときに、収支やキャッシュフローがどう変わるかをシミュレーションすることです。
変動要素
以下の要素を変動させ、影響を確認します。
- 賃料が5%下がった場合
- 稼働率が90%に下がった場合
- 建築費が10%増加した場合
- 金利が1%上昇した場合
- 工期が3ヶ月遅延した場合
「結論」より「ボトルネック」を見つける
感度分析の目的は、「成立/未成立」を判断するだけでなく、「どこがボトルネックか」を特定することです。賃料が低いのか、建築費が高いのか、金利負担が重いのか、工期が長すぎるのか。ボトルネックが分かれば、対策(価格交渉、設計変更、融資条件の見直しなど)を打つことができます。
アウトプット
シナリオ比較表を作成します。
【図表3】感度分析(シナリオ表)
| シナリオ | 賃料 | 稼働率 | 建築費 | 金利 | NOI(万円) | 返済額(万円) | CF(万円) | DSCR | 判定 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 標準 | 7.0万円 | 95% | 5,000万円 | 2.0% | 438 | 350 | 88 | 1.25 | OK |
| 保守 | 6.5万円 | 90% | 5,500万円 | 2.0% | 330 | 350 | -20 | 0.94 | 注意 |
| 悪化 | 6.3万円 | 85% | 5,750万円 | 3.0% | 280 | 390 | -110 | 0.72 | NG |
この表から、保守ケースではキャッシュフローがマイナスになり、悪化ケースではDSCRが0.72まで低下することが分かります。
ボトルネックの特定
保守ケースでキャッシュフローがマイナスになる主な要因は、賃料が6.5万円に下がることと、稼働率が90%に低下することです。対策としては、賃料を維持するために設備を充実させる(宅配BOX、インターネット無料など)、稼働率を上げるためにリーシング力の高い管理会社を選ぶ、といった方法が考えられます。
また、建築費が10%増加すると、総投資額が増え、借入額と返済負担が増えます。対策としては、設計を簡素化してコストを削減する、相見積もりを取って施工業者を比較する、といった方法があります。
金利が1%上昇すると、返済額が年間40万円増加します。対策としては、自己資金を増やして借入額を減らす、金利の低い金融機関を探す、固定金利で借りてリスクをヘッジする、といった方法があります。
融資で説明力が上がるポイント
金融機関に融資を相談する際、説明力が高い資料を準備することで、審査がスムーズに進みます。
根拠(家賃・需要・競合)
想定賃料の根拠を明確に示します。競合物件の募集家賃、成約事例、募集期間などのデータを添付し、「この立地で、この間取りなら、この賃料で決まる」という根拠を示します。
保守シナリオ
標準ケースだけでなく、保守ケースでもキャッシュフローがプラスであることを示します。金融機関は、「計画通りにいかなかった場合でも返済できるか」を重視します。
工期・コストの管理(予備費、体制)
予備費を計上し、追加費用に備えていることを示します。また、施工会社、設計事務所、管理会社などの体制を明示し、「計画を実行できる体制が整っている」ことを示します。
必要資料の整合性
収支、資金計画、工程表、体制図など、複数の資料が整合していることを確認します。たとえば、収支で想定している竣工時期と、工程表の竣工時期が一致しているか、借入希望額と総投資額が一致しているか、といった点をチェックします。
開発融資で金融機関が確認するポイントについては、以下の記事で詳しく解説しています。
関連記事
開発融資の見られ方:金融機関が確認するポイントと準備資料
収支テンプレ(コピペ用)を提示する
以下は、事業収支を作成するためのテンプレートです。Excel・スプレッドシートにコピーして、自分の案件に当てはめてください。
【図表4】事業収支テンプレート(項目表)
| 項目 | 標準ケース | 保守ケース | 備考 |
|---|---|---|---|
| 【前提条件】 | |||
| 戸数 | 8 | 8 | |
| 想定賃料(万円/戸) | 7.0 | 6.5 | |
| 稼働率(%) | 95 | 90 | |
| 【収入】 | |||
| 年間賃料収入(満室時・万円) | 672 | 624 | 賃料×戸数×12ヶ月 |
| 年間実質賃料収入(万円) | 638 | 562 | 満室時×稼働率 |
| 【運営費】 | |||
| 管理費(万円) | 30 | 32 | 賃料収入の5% |
| 清掃費(万円) | 18 | 20 | |
| 共用部光熱費(万円) | 12 | 15 | |
| 募集費(万円) | 20 | 25 | |
| 保険料(万円) | 10 | 10 | |
| 固定資産税・都市計画税(万円) | 50 | 50 | |
| 修繕費(積立・万円) | 40 | 50 | |
| 原状回復費(万円) | 20 | 30 | |
| 運営費合計(万円) | 200 | 232 | |
| 【NOI】 | 438 | 330 | 実質賃料収入−運営費 |
| 【開発コスト】 | |||
| 土地取得費(万円) | 2,500 | 2,500 | |
| 土地取得諸費用(万円) | 125 | 125 | |
| 設計費(万円) | 150 | 180 | |
| 建築費(万円) | 5,000 | 5,500 | |
| 造成費・地盤改良費(万円) | 150 | 400 | |
| 外構・付帯工事(万円) | 200 | 250 | |
| 予備費(万円) | 250 | 500 | |
| 総投資額(万円) | 8,375 | 9,455 | |
| 【資金計画】 | |||
| 自己資金(万円) | 1,500 | 1,500 | |
| 借入額(万円) | 6,875 | 7,955 | |
| 金利(%) | 2.0 | 2.0 | |
| 返済期間(年) | 25 | 25 | |
| 年間返済額(万円) | 348 | 403 | 概算 |
| 【キャッシュフロー】 | 90 | -73 | NOI−年間返済額 |
| 【指標】 | |||
| NOI利回り(%) | 5.2 | 3.5 | NOI÷総投資額 |
| DSCR | 1.26 | 0.82 | NOI÷年間返済額 |
このテンプレートを使用し、自分の案件の数字を入力することで、標準ケースと保守ケースの収支を比較できます。
事業収支の詳細な作成手順については、以下の記事で解説しています。
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事業収支の作り方(簡易版):想定賃料→空室率→運営費→NOIまで
よくある失敗と修正方法
事業収支を作成する際、以下のような失敗が繰り返し発生しています。これらの失敗を避けることで、収支の精度が上がります。
満室前提で計算している
稼働率100%(常に満室)を前提にすると、実際には空室が発生するため、収入が計画を下回ります。
修正方法: 稼働率を90%〜95%で設定し、立ち上がり期間(竣工から満室までの3〜6ヶ月)も織り込みます。
運営費を率だけで計上している
「運営費は賃料収入の20%」といった一括計上では、内訳が見えず、検証ができません。
修正方法: 管理費、清掃費、修繕費、原状回復費、固定資産税、保険料など、項目別に積み上げます。
建築費を固定前提にしている
見積もり通りに建築費が収まると仮定すると、追加費用が発生した時点で資金が不足します。
修正方法: 建築費に幅を持たせ(標準/保守)、予備費を5%〜10%計上します。
金利・工期を無視している
金利上昇や工期遅延のリスクを考慮せずに計画すると、返済負担が増えたり、満室が遅れたりします。
修正方法: 感度分析で、金利が1%上昇した場合、工期が3ヶ月遅延した場合のシナリオを作成し、影響を確認します。資金繰り表で、工期中の資金の流れを月次で管理します。
次のアクション
本記事で解説した事業収支・資金計画の作成手順を活用し、以下のアクションを実施してください。
候補地がある人
前提条件シートを作成し、標準/保守の2パターンで収支を作成します。資金繰り表で、工期中から満室までの資金の流れを確認します。感度分析で、賃料・稼働率・建築費・金利が変動した場合の影響を確認し、ボトルネックを特定します。
まだ候補地がない人
ターゲット層(単身/DINKS/ファミリー)と条件(駅距離、土地面積、予算)を定義します。賃貸需要調査を実施し、家賃相場、競合状況、稼働率の傾向を把握します。
融資相談する場合
以下の資料を準備しておくと、スムーズに話が進みます。
- 候補地の情報(住所、地番、面積、価格、公図、測量図、登記事項証明書)
- 前提条件シート(立地、ターゲット、戸数/間取り、竣工時期、運用方針)
- 事業収支(標準/保守の2パターン、NOI、DSCR、感度分析)
- 資金計画(月次資金繰り、工程表、体制図)
- 賃貸需要の根拠(競合分析、家賃相場、人口動態)
これらの資料を整えることで、金融機関に対する説明力が高まり、融資審査がスムーズに進みます。
免責事項
本記事で紹介した事業収支・資金計画の作成方法および数値例は、一般的な情報に基づくものです。賃料相場、建築費、金利、税金、運営費などは、地域、物件条件、時期、個別事情によって大きく変動します。
本記事の情報に基づいて作成した収支は、あくまで「予測」であり、将来の収益を保証するものではありません。融資の可否、融資条件、審査結果についても保証するものではありません。
実際の事業収支の作成にあたっては、建築士、税理士、金融機関、不動産鑑定士など、専門家の助言を得ることを強く推奨します。税務(減価償却、所得税、法人税など)、法規制、融資条件については、個別性が高いため、必ず専門家にご確認ください。
本記事の情報に基づいて行った判断について、当社は一切の責任を負いかねます。
