MENU

事業収支・資金計画|家賃想定〜建築費〜融資までの作り方

事業収支

アパートメント開発において、事業収支と資金計画は意思決定の核となる資料です。しかし、開発は一棟購入とは異なり、まだ存在しない物件の収益性を予測し、完成までの資金の流れを管理する必要があります。変数が多く、不確実性が高いからこそ、収支を作る「型」が重要になります。

多くの開発検討者が陥りやすいのは、「見積もりが固まるまで収支が作れない」「満室前提で計算すればいい」「利回りさえ合えば大丈夫」という誤解です。実際には、見積もりが出る前でも概算収支は作れますし、満室前提では立ち上がり期間の資金繰りを見落とします。利回りだけでは、賃料下落や金利上昇のリスク耐性は分かりません。

本記事では、事業収支と資金計画を、最初のたたき台から精緻化まで、一連の流れで体系化します。家賃想定(収入)、運営費(OPEX)、開発費(CAPEX)、借入条件(Debt)を分解し、「何をどう置けばいいか」を具体的に解説します。また、標準・保守・悪化の3シナリオで感度分析を行い、「どこがボトルネックか」を特定する方法も提示します。

本記事は、株式会社RIELがアパートメント開発事業者向けに提供する情報の一部です。RIELは、用地選定から設計・施工、資金計画、運営管理まで、開発プロジェクト全体をサポートしています。開発に関する具体的なご相談や、事業収支の精緻化、融資条件の検討については、RIEL公式サイトをご覧ください。

目次

「成立するか」は1枚の収支ではなくシナリオで判断する

事業収支を作る際、最も重要なのは、1つの前提だけで判断しないことです。標準的なシナリオだけでなく、保守的なシナリオ、さらに悪化したシナリオの3パターンで収支を作成し、それぞれでキャッシュフローがどう変化するかを確認します。

標準シナリオ: 競合相場の中央値で賃料が決まり、稼働率95%、建築費が見積もり通り、金利が現在水準のまま推移する、という「おそらくこうなるだろう」前提です。

保守シナリオ: 賃料が相場より5%低い、稼働率90%、建築費が見積もりより10%増加、金利が1%上昇する、という「やや厳しめ」の前提です。このシナリオでもキャッシュフローがプラスであれば、リスク耐性があると言えます。

悪化シナリオ: 賃料が相場より10%低い、稼働率85%、建築費が見積もりより15%増加、金利が2%上昇、工期が3ヶ月遅延する、という「かなり厳しい」前提です。このシナリオで赤字に転落する場合、どこまでリスクを許容できるかを判断します。

「満室前提」「コスト固定前提」を避ける理由

満室前提(稼働率100%)で計算すると、実際には空室が発生するため、収入が計画を下回ります。また、新築時は竣工から満室まで数ヶ月かかることが一般的であり、その間の収入減少を見落とすと、資金繰りが厳しくなります。

コスト固定前提では、建築費や造成費が見積もり通りに収まると仮定しますが、実際には地盤調査、造成、インフラ引き込みなどで追加費用が発生することがあります。予備費を計上せずに進めると、追加費用が発生した時点で資金が不足します。

収支と資金繰りは別物(黒字でも資金ショートする)

年間収支が黒字でも、資金繰りが回らなければ事業は継続できません。たとえば、竣工後に満室になるまでの間、賃料収入がゼロまたは部分的にしか入らないため、その間のローン返済と運営費を自己資金で賄う必要があります。また、工期中は建築費の支払いが先行し、借入金の実行タイミングとズレが生じることがあります。資金繰り(月次のキャッシュインとキャッシュアウト)を計画に織り込むことが不可欠です。

以下の図表は、事業収支・資金計画の全体フローを示したものです。

【図表1】事業収支・資金計画の全体フロー(STEP0〜8)

ステップ内容アウトプット
STEP0前提条件の固定前提条件シート(立地、ターゲット、戸数/間取り、竣工時期、運用方針)
STEP1家賃想定(収入)間取り別の想定賃料表(標準/保守)
STEP2稼働率と立ち上がり月次の稼働イメージ(竣工〜満室までの期間)
STEP3運営費(OPEX)運営費の内訳表(項目別)
STEP4NOI(純営業収益)標準/保守のNOI
STEP5開発費(CAPEX)概算CAPEX(土地、建築費、造成、予備費など)
STEP6借入条件(Debt)年間返済額の概算、金利感度のメモ
STEP7資金計画(資金繰り)月次の資金繰り(工期中含む)
STEP8感度分析(シナリオ)シナリオ比較表(標準/保守/悪化)、ボトルネックの特定

このフローに沿って、順番に収支と資金計画を作成していきます。


STEP0 前提条件を固定する

収支を作る前に、まず前提条件を固定します。前提が曖昧なまま収支を作ると、後で「あの数字は何を前提にしていたか」が分からなくなり、判断がブレます。

固定すべき前提条件:

立地: 最寄り駅、駅距離(徒歩分数)、周辺の家賃相場、競合物件の供給状況。立地が変われば、想定賃料、稼働率、ターゲット層が変わります。

ターゲット: 誰向けの物件か(単身者/DINKS/ファミリーなど)、年齢層、職業・ライフスタイルの想定。ターゲットが明確でないと、間取りや設備の選定がブレます。

戸数/間取り(仮置き): 戸数(何戸建てるか)、間取り(ワンルーム/1K、1LDK、2LDKなど)、専有面積の方向性。この段階では詳細設計は不要ですが、「ワンルーム8戸、延床300㎡程度」といった大枠を決めます。

竣工時期: 着工時期、竣工時期、満室時期の想定。工期が長くなれば、その間の金利負担や機会損失が増えます。

運用方針: 長期保有するのか、築浅で売却するのか。長期保有であれば、修繕費や賃料下落を織り込む必要があります。売却前提であれば、売却時の想定価格(出口戦略)も考慮します。

アウトプット:

前提条件シートを作成します。以下は例です。

  • 立地:○○駅徒歩7分、住宅地、周辺相場ワンルーム6.5〜7.5万円
  • ターゲット:20代後半〜30代前半の単身者(社会人)
  • 戸数/間取り:ワンルーム8戸、1K 25㎡×8戸、延床面積約300㎡
  • 竣工時期:着工2026年4月、竣工2027年3月、満室2027年6月
  • 運用方針:長期保有(10年以上)

この前提条件シートは、収支のすべての計算の基礎となります。途中で前提が変わる場合は、収支を作り直す必要があります。


STEP1 収入(家賃)を置く

収支の最初のステップは、想定賃料を設定することです。賃料は収入の源泉であり、ここが狂うと収支全体が崩れます。

同条件の募集相場の集め方(レンジで):

対象地周辺の募集家賃を、間取り別、築年数別、駅距離別に調査します。不動産ポータルサイト(SUUMO、HOME’S、at homeなど)で、同条件の物件を検索し、賃料のレンジ(上位/中央値/下位)を把握します。

たとえば、「駅徒歩5〜10分、築5年以内、ワンルーム25㎡」の条件で検索した結果、募集家賃が6.5万円〜7.5万円の範囲に分布している場合、中央値は7.0万円前後となります。

成約との差が出得ること、キャンペーン等の存在に注意:

募集家賃がそのまま成約するとは限りません。入居者との交渉、フリーレント(一定期間の賃料無料)、広告料(AD)の上乗せなど、「見えにくい値引き」が存在します。また、繁忙期(1〜3月)と閑散期(夏〜冬)では、募集条件が変わることがあります。

成約家賃のデータは一般に入手困難であるため、募集家賃から一定の割引を見込んで保守的に推定します。たとえば、「募集家賃の95%〜98%が成約家賃」といった前提を置くことが考えられます。

標準/保守賃料の置き方:

募集家賃の中央値を「標準賃料」とし、そこから5%〜10%低い水準を「保守賃料」とします。たとえば、ワンルーム25㎡の募集相場が7.0万円であれば、標準賃料は7.0万円、保守賃料は6.5万円〜6.7万円とします。

アウトプット:

間取り別の想定賃料表を作成します。

間取り専有面積(㎡)標準賃料(万円)保守賃料(万円)根拠
ワンルーム257.06.5競合相場の中央値〜下位
1K257.06.5同上

賃貸需要の詳細な調査方法については、以下の記事で解説しています。


STEP2 稼働率と立ち上がり(満室までの時間)を織り込む

次に、稼働率を設定します。稼働率は、「年間を通じて何%の部屋が入居している状態か」を示す指標です。

通年稼働率の考え方:

通年の稼働率は、保守的に**90%〜95%**で設定します。つまり、年間で5%〜10%の空室が発生することを前提とします。たとえば、8戸の物件であれば、年間で0.4戸〜0.8戸分の空室が発生する計算です。

稼働率100%(常に満室)を前提にすると、実際には退去が発生するため、収入が計画を下回ります。

新築の立ち上がり期間(満室までの想定):

新築物件の場合、竣工直後は満室にならないことが多いため、竣工から満室までの期間を3ヶ月〜6ヶ月程度見込みます。この期間は、収入がゼロまたは部分的にしか入らないため、資金繰りに影響します。

たとえば、2027年3月に竣工し、2027年6月に満室になると想定した場合、3月〜5月は部分的な入居(50%〜80%程度)を見込みます。

アウトプット:

月次の稼働イメージを作成します。

稼働率(標準)稼働率(保守)備考
2027年3月0%0%竣工、募集開始
2027年4月50%30%部分入居開始
2027年5月80%60%継続募集
2027年6月95%85%ほぼ満室
2027年7月以降95%90%通年稼働

この立ち上がり期間を織り込むことで、竣工直後の収入減少と資金繰りへの影響を把握できます。


STEP3 運営費(OPEX)を項目で積む

運営費(Operating Expense, OPEX)は、物件を運営するために毎年発生する費用です。運営費を見落とすと、収支が大幅に悪化します。

運営費の主な項目:

管理費: 管理会社に支払う費用。一般的に、賃料収入の3%〜5%程度です。自主管理の場合でも、管理業務の労力をコストとして認識します。

清掃費: 共用部の清掃費用。週1回〜月2回の清掃で、月額1万円〜3万円程度が一般的です。

共用部光熱費: 共用廊下、階段、エントランスの照明、エレベーター(ある場合)の電気代など。月額数千円〜数万円程度です。

募集費: 広告料(AD)、仲介手数料、フリーレントなど。退去が発生するたびに必要になります。年間の退去率を10%〜20%と仮定し、募集費を見込みます。

保険料: 火災保険、地震保険など。年間数万円〜十数万円程度です。

税(一般論): 固定資産税・都市計画税は、土地と建物の評価額に基づき、毎年課税されます。一般的には評価額の1.4%〜1.7%程度です。個別の評価額は自治体によって異なるため、正確な金額は固定資産税課に確認します。

修繕費(平準化の考え方): 外壁塗装、防水工事、設備の交換など、大規模修繕に備えた費用。新築時は発生しませんが、築10年〜15年で大規模修繕が発生するため、年間で賃料収入の5%〜10%を積み立てる考え方が一般的です。

原状回復費: 退去時の室内クリーニング、壁紙・床の張り替え、設備の修理など。1戸あたり5万円〜15万円程度が目安です。退去率を年間10%〜20%と仮定し、年間の原状回復費を見込みます。

「率で一括」だけにしない理由(検証不能になる):

「運営費は賃料収入の20%」といった形で一括計上することもありますが、これでは内訳が見えず、検証ができません。たとえば、修繕費が想定より高くなった場合、どの項目が増えたのかが分かりません。項目別に積み上げることで、収支の精度が上がります。

アウトプット:

運営費の内訳表を作成します。

項目年間費用(標準・万円)年間費用(保守・万円)備考
管理費3032賃料収入の5%
清掃費1820月額1.5万円
共用部光熱費1215月額1万円〜1.2万円
募集費2025退去率15%、AD 1ヶ月分
保険料1010火災保険
固定資産税・都市計画税5050評価額の1.5%
修繕費(積立)4050賃料収入の7%
原状回復費2030退去率15%、1戸10万円
合計200232

この表をもとに、次のステップでNOIを計算します。


STEP4 NOIを出す

NOI(Net Operating Income、純営業収益)は、物件が生み出す「運営の稼ぐ力」を示す指標です。

計算方法:

$$\text{NOI} = \text{年間賃料収入} \times \text{稼働率} – \text{運営費}$$

たとえば、以下の前提で計算します。

  • 年間賃料収入(満室時):8戸 × 7.0万円 × 12ヶ月 = 672万円
  • 稼働率(標準):95%
  • 稼働率(保守):90%
  • 運営費(標準):200万円
  • 運営費(保守):232万円

標準ケース:

$$\text{年間実質賃料収入} = 672 \times 0.95 = 638.4 \text{万円}$$

$$\text{NOI} = 638.4 – 200 = 438.4 \text{万円}$$

保守ケース:

年間賃料収入(満室時):8戸 × 6.5万円 × 12ヶ月 = 624万円

$$\text{年間実質賃料収入} = 624 \times 0.90 = 561.6 \text{万円}$$

$$\text{NOI} = 561.6 – 232 = 329.6 \text{万円}$$

NOIの位置づけ(返済前の実力):

NOIは、ローン返済や税金を考慮する前の「物件そのものの収益力」を示します。NOIが高ければ、その物件は運営上の収益性が高いと言えます。

アウトプット:

標準/保守のNOIを明記します。

  • 標準ケース:NOI 438万円
  • 保守ケース:NOI 330万円

次に、開発費を計算し、最終的なキャッシュフローを算出します。


STEP5 開発費(CAPEX)を概算する

開発費(Capital Expenditure, CAPEX)は、物件を完成させるまでに必要な初期投資です。見積もりが固まる前の段階では、概算で構いませんが、ブレやすい箇所を特定し、予備費を計上することが重要です。

主なコスト項目:

以下の項目を計上します。

項目概算金額(標準・万円)概算金額(保守・万円)備考
土地取得費2,5002,500土地価格
土地取得諸費用125125仲介手数料、登記費用、印紙税など(土地価格の5%程度)
設計費150180建築費の3%〜5%程度
建築確認申請費用2525確認申請手数料
各種負担金50100上下水道、インフラ引き込み負担金
建築費5,0005,500坪単価×延床面積(見積前は幅を持たせる)
造成費・地盤改良費150400高低差、擁壁、軟弱地盤の場合に発生
外構工事120150駐車場、フェンス、植栽など
付帯工事80100エアコン、照明、カーテンレールなど
予備費250500建築費の5%〜10%(想定外の追加工事に備える)
合計8,4509,580

予備費(コンティンジェンシー)を”最初から入れる”理由:

見積もり段階で想定できない追加費用に備え、建築費の5%〜10%程度を予備費として計上します。地盤改良、造成、擁壁のやり替え、インフラ引き込みなど、調査が進むまで正確な金額が分からない項目があるためです。

予備費を計上していない場合、追加費用が発生した時点で資金が不足し、プロジェクトが頓挫するリスクがあります。

アウトプット:

概算CAPEXを明記します。

  • 標準ケース:総投資額 8,450万円
  • 保守ケース:総投資額 9,580万円

開発費のブレ要因については、以下の記事で詳しく解説しています。


STEP6 借入条件を置く

開発費が概算できたら、次に資金計画を立てます。

入力(必要な情報):

自己資金の金額、借入額、金利、返済期間を設定します。

たとえば、以下の前提で計算します(標準ケース)。

  • 総投資額:8,450万円
  • 自己資金:1,500万円
  • 借入額:6,950万円
  • 金利:2.0%(固定)
  • 返済期間:25年

年間返済額の計算:

年間返済額は、元利均等返済の場合、金融機関の返済シミュレーターを使用して計算します。上記の前提では、年間返済額は約350万円程度となります(概算)。

指標(例:DSCR等)は「一般的な考え方」として触れる:

DSCR(Debt Service Coverage Ratio)は、NOIがローン返済額の何倍あるかを示す指標です。

$$\text{DSCR} = \frac{\text{NOI}}{\text{年間返済額}}$$

標準ケース(NOI 438万円)では、

$$\text{DSCR} = \frac{438}{350} = 1.25$$

一般的に、DSCRが1.2以上あれば、返済余力があると評価されます。ただし、DSCRの定義や基準は金融機関によって異なるため、個別に確認が必要です。

金利感度のメモ:

金利が1%上昇した場合(金利3.0%)、年間返済額は約390万円に増加します(概算)。この場合、

標準ケース:$$\text{DSCR} = \frac{438}{390} = 1.12$$

保守ケース:$$\text{DSCR} = \frac{330}{390} = 0.85$$

金利が1%上昇するだけで、保守ケースではDSCRが1.0を下回り、返済余力がなくなることが分かります。

アウトプット:

年間返済額の概算と金利感度を明記します。

ケースNOI(万円)年間返済額(万円)キャッシュフロー(万円)DSCR
標準(金利2.0%)438350881.25
保守(金利2.0%)330350-200.94
標準(金利3.0%)438390481.12
保守(金利3.0%)330390-600.85

この表から、保守ケースでは金利2.0%でもキャッシュフローがマイナスになることが分かります。この場合、賃料を上げる、コストを削減する、自己資金を増やす、といった対策が必要です。


STEP7 資金計画(資金繰り)

年間収支が黒字でも、資金繰りが回らなければ事業は継続できません。資金繰りとは、月次のキャッシュインとキャッシュアウトを管理することです。

工期中の支出タイミング:

工期中(着工から竣工まで)は、賃料収入がゼロですが、建築費の支払いが発生します。一般的に、建築費は以下のようなタイミングで支払われます。

  • 着工時(契約金):建築費の10%〜30%
  • 中間払い(上棟時など):建築費の30%〜50%
  • 竣工時(引き渡し):残金

この支払いタイミングと、借入金の実行タイミングがズレると、つなぎ資金が必要になります。

分割実行、つなぎ等の”考え方”:

金融機関によっては、建築費の支払いタイミングに合わせて、借入金を分割実行してくれることがあります。また、工期中の短期融資(つなぎ融資)を利用することで、自己資金の負担を軽減できます。

ただし、つなぎ融資の可否、金利、条件は金融機関によって異なるため、事前に確認が必要です。

重要:支払サイト、出来高、着工金、引渡し時期:

建築費の支払いは、出来高(工事の進捗)に応じて行われることが一般的です。着工金、中間払い、竣工時の残金といった形で、複数回に分けて支払います。これらのタイミングを事前に把握し、資金繰り表に反映させます。

アウトプット:

月次の資金繰り(簡易テンプレ)を作成します。

以下の図表は、資金計画テンプレートの概形を示したものです。

【図表2】資金計画テンプレート(月次資金繰り・概形)

自己資金投入(万円)借入実行(万円)建築費支払い(万円)諸費用支払い(万円)利息(万円)賃料収入(万円)月次CF(万円)累計CF(万円)
2026年4月(着工)5001,5001,50030000-300-300
2026年7月(中間)02,5002,5000100-10-310
2027年3月(竣工)1,0002,9502,450200300-30-340
2027年4月(入居開始)000012280268-72
2027年5月000012450438366
2027年6月(満室)000012540528894
2027年7月以降000012540528継続

この資金繰り表を作成することで、どの時点で自己資金を投入する必要があるか、借入金の実行タイミングはいつか、満室になるまでの間に資金が不足しないかを確認できます。


STEP8 感度分析

収支が作成できたら、最後に感度分析を行います。感度分析とは、前提条件を変化させたときに、収支やキャッシュフローがどう変わるかをシミュレーションすることです。

変動要素

以下の要素を変動させ、影響を確認します。

  • 賃料が5%下がった場合
  • 稼働率が90%に下がった場合
  • 建築費が10%増加した場合
  • 金利が1%上昇した場合
  • 工期が3ヶ月遅延した場合

「結論」より「ボトルネック」を見つける

感度分析の目的は、「成立/未成立」を判断するだけでなく、「どこがボトルネックか」を特定することです。賃料が低いのか、建築費が高いのか、金利負担が重いのか、工期が長すぎるのか。ボトルネックが分かれば、対策(価格交渉、設計変更、融資条件の見直しなど)を打つことができます。

アウトプット

シナリオ比較表を作成します。

【図表3】感度分析(シナリオ表)

シナリオ賃料稼働率建築費金利NOI(万円)返済額(万円)CF(万円)DSCR判定
標準7.0万円95%5,000万円2.0%438350881.25OK
保守6.5万円90%5,500万円2.0%330350-200.94注意
悪化6.3万円85%5,750万円3.0%280390-1100.72NG

この表から、保守ケースではキャッシュフローがマイナスになり、悪化ケースではDSCRが0.72まで低下することが分かります。

ボトルネックの特定

保守ケースでキャッシュフローがマイナスになる主な要因は、賃料が6.5万円に下がることと、稼働率が90%に低下することです。対策としては、賃料を維持するために設備を充実させる(宅配BOX、インターネット無料など)、稼働率を上げるためにリーシング力の高い管理会社を選ぶ、といった方法が考えられます。

また、建築費が10%増加すると、総投資額が増え、借入額と返済負担が増えます。対策としては、設計を簡素化してコストを削減する、相見積もりを取って施工業者を比較する、といった方法があります。

金利が1%上昇すると、返済額が年間40万円増加します。対策としては、自己資金を増やして借入額を減らす、金利の低い金融機関を探す、固定金利で借りてリスクをヘッジする、といった方法があります。


融資で説明力が上がるポイント

金融機関に融資を相談する際、説明力が高い資料を準備することで、審査がスムーズに進みます。

根拠(家賃・需要・競合)

想定賃料の根拠を明確に示します。競合物件の募集家賃、成約事例、募集期間などのデータを添付し、「この立地で、この間取りなら、この賃料で決まる」という根拠を示します。

保守シナリオ

標準ケースだけでなく、保守ケースでもキャッシュフローがプラスであることを示します。金融機関は、「計画通りにいかなかった場合でも返済できるか」を重視します。

工期・コストの管理(予備費、体制)

予備費を計上し、追加費用に備えていることを示します。また、施工会社、設計事務所、管理会社などの体制を明示し、「計画を実行できる体制が整っている」ことを示します。

必要資料の整合性

収支、資金計画、工程表、体制図など、複数の資料が整合していることを確認します。たとえば、収支で想定している竣工時期と、工程表の竣工時期が一致しているか、借入希望額と総投資額が一致しているか、といった点をチェックします。

開発融資で金融機関が確認するポイントについては、以下の記事で詳しく解説しています。

関連記事
開発融資の見られ方:金融機関が確認するポイントと準備資料


収支テンプレ(コピペ用)を提示する

以下は、事業収支を作成するためのテンプレートです。Excel・スプレッドシートにコピーして、自分の案件に当てはめてください。

【図表4】事業収支テンプレート(項目表)

項目標準ケース保守ケース備考
【前提条件】
戸数88
想定賃料(万円/戸)7.06.5
稼働率(%)9590
【収入】
年間賃料収入(満室時・万円)672624賃料×戸数×12ヶ月
年間実質賃料収入(万円)638562満室時×稼働率
【運営費】
管理費(万円)3032賃料収入の5%
清掃費(万円)1820
共用部光熱費(万円)1215
募集費(万円)2025
保険料(万円)1010
固定資産税・都市計画税(万円)5050
修繕費(積立・万円)4050
原状回復費(万円)2030
運営費合計(万円)200232
【NOI】438330実質賃料収入−運営費
【開発コスト】
土地取得費(万円)2,5002,500
土地取得諸費用(万円)125125
設計費(万円)150180
建築費(万円)5,0005,500
造成費・地盤改良費(万円)150400
外構・付帯工事(万円)200250
予備費(万円)250500
総投資額(万円)8,3759,455
【資金計画】
自己資金(万円)1,5001,500
借入額(万円)6,8757,955
金利(%)2.02.0
返済期間(年)2525
年間返済額(万円)348403概算
【キャッシュフロー】90-73NOI−年間返済額
【指標】
NOI利回り(%)5.23.5NOI÷総投資額
DSCR1.260.82NOI÷年間返済額

このテンプレートを使用し、自分の案件の数字を入力することで、標準ケースと保守ケースの収支を比較できます。

事業収支の詳細な作成手順については、以下の記事で解説しています。

関連記事
事業収支の作り方(簡易版):想定賃料→空室率→運営費→NOIまで

よくある失敗と修正方法

事業収支を作成する際、以下のような失敗が繰り返し発生しています。これらの失敗を避けることで、収支の精度が上がります。

満室前提で計算している

稼働率100%(常に満室)を前提にすると、実際には空室が発生するため、収入が計画を下回ります。

修正方法: 稼働率を90%〜95%で設定し、立ち上がり期間(竣工から満室までの3〜6ヶ月)も織り込みます。

運営費を率だけで計上している

「運営費は賃料収入の20%」といった一括計上では、内訳が見えず、検証ができません。

修正方法: 管理費、清掃費、修繕費、原状回復費、固定資産税、保険料など、項目別に積み上げます。

建築費を固定前提にしている

見積もり通りに建築費が収まると仮定すると、追加費用が発生した時点で資金が不足します。

修正方法: 建築費に幅を持たせ(標準/保守)、予備費を5%〜10%計上します。

金利・工期を無視している

金利上昇や工期遅延のリスクを考慮せずに計画すると、返済負担が増えたり、満室が遅れたりします。

修正方法: 感度分析で、金利が1%上昇した場合、工期が3ヶ月遅延した場合のシナリオを作成し、影響を確認します。資金繰り表で、工期中の資金の流れを月次で管理します。


次のアクション

本記事で解説した事業収支・資金計画の作成手順を活用し、以下のアクションを実施してください。

候補地がある人

前提条件シートを作成し、標準/保守の2パターンで収支を作成します。資金繰り表で、工期中から満室までの資金の流れを確認します。感度分析で、賃料・稼働率・建築費・金利が変動した場合の影響を確認し、ボトルネックを特定します。

まだ候補地がない人

ターゲット層(単身/DINKS/ファミリー)と条件(駅距離、土地面積、予算)を定義します。賃貸需要調査を実施し、家賃相場、競合状況、稼働率の傾向を把握します。

融資相談する場合

以下の資料を準備しておくと、スムーズに話が進みます。

  • 候補地の情報(住所、地番、面積、価格、公図、測量図、登記事項証明書)
  • 前提条件シート(立地、ターゲット、戸数/間取り、竣工時期、運用方針)
  • 事業収支(標準/保守の2パターン、NOI、DSCR、感度分析)
  • 資金計画(月次資金繰り、工程表、体制図)
  • 賃貸需要の根拠(競合分析、家賃相場、人口動態)

これらの資料を整えることで、金融機関に対する説明力が高まり、融資審査がスムーズに進みます。


免責事項

本記事で紹介した事業収支・資金計画の作成方法および数値例は、一般的な情報に基づくものです。賃料相場、建築費、金利、税金、運営費などは、地域、物件条件、時期、個別事情によって大きく変動します。

本記事の情報に基づいて作成した収支は、あくまで「予測」であり、将来の収益を保証するものではありません。融資の可否、融資条件、審査結果についても保証するものではありません。

実際の事業収支の作成にあたっては、建築士、税理士、金融機関、不動産鑑定士など、専門家の助言を得ることを強く推奨します。税務(減価償却、所得税、法人税など)、法規制、融資条件については、個別性が高いため、必ず専門家にご確認ください。

本記事の情報に基づいて行った判断について、当社は一切の責任を負いかねます。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次